割食ったシリーズが好調なので本日もこれで行ってみます。
先日新聞の投書欄か何かで「戦争のために作られた原爆と同じ仕組みの原発で人間が幸せになれるわけがない」というめちゃくちゃな論理のものが掲載されてました。もしこの論理が正しければ、第一次世界大戦の時に偵察や爆撃のために開発されたのが飛行機ですから、飛行機に乗って海外旅行に行っても楽しい訳がありません。そしてアメリカ国防総省が軍事のために開発したのがインターネットですから、ネットサーフする人は戦争大好きな人ということになります。原発に反対するのはいいのですが、こんなはちゃめちゃな論理では最初から自分が無知なのを露呈してしまい、説得力が無くなるので注意です。
さて、それではインターネットの普及によって、幸せになった皆様、最近では中東で民主化に成功した国民とかもこの恩恵を被っているわけですが、逆にとんでもない不幸に襲われた方も多いです。本日は戦争のために開発されたインターネットで不幸になった方々に思いを寄せてみましょう(皮肉です)。
まず本屋さんは、アマゾンなどのネット書店のおかげで相当にきつくなりました。アメリカでは今年2月に業界第2位のボーダーズという書店が倒産しました。日本でも2000年から2010年で3割の書店が消滅したそうです。しかし日本の場合は駅前の書店で立ち読みという文化?があるので、アメリカのように壊滅まではいかないでしょう。書店がなくなったら待ち合わせの時間つぶしに困ります。
一番の被害者は音楽業界ではないでしょうか。実は昨日、旧知の音楽系では非常に有名なデザイナーのS君と久々に会いました。彼は日本のロック系ミュージシャンのCDジャケットを多く手がけてまして、玄関にはプラチナディスクの盾が多数・・・驚。印税契約ですから一時はかなり潤ったそうです。
しかし音楽CDの販売部数は世界的に1998年をピークに大きく減少しているのです。1998年は、つまり、日本での個人向けインターネットサービスが始まった年です! (そうだったのか! 日本SNS史第1回参照)。どれくらい落ち込んでるのかというと、CDアルバムは1999年から2010年の11年間でなんと45%のマーケットが吹き飛んでしまいました。ソースはこちらです。もちろんネットの有料配信は増えていますが、日本の場合は価格も高く、CDの落ち込みをまったくカバーできません。アメリカのタワーレコードは破産しちゃうしHMVジャパンも閉店です。
いいグラフがありました。2007年に有料配信がちょこっと増えてプラスに転じましたが、いまではそれを含めても減少しているんです。ミリオンセラーもほとんど出なくなり、完全に減少、収縮中です。
理由はいろいろ挙げられてます。
1 そもそも音楽を聴く若者が減った。
そういえば20年くらい前は電車の中でシャカシャカうるさい若者ウォークマンが多数いましたが、子供自体が減った。つまり少子化対策を怠った政府が悪い、みたいな。しかし若者がスライドしてそのままおっさんとおばさんになってるわけで、その人達が音楽から離れた理由とは関係無い気が・・だってそもそも高年齢の人が聞いていた演歌なんて業界自体が崩壊してます。若者が減ったのが理由では無くてそもそもみんな音楽を聴かなくなっているのだ。
2 若者は携帯代を払うのに大変で音楽まで手が回らない
これ、ことあるごとによく言われてるんですが、タダ友のSoftBankのシェア拡大、キャリアの競争による電話の通話料の値下げで昔ほど使ってないんじゃあ・・?
携帯1本あたりの月間収入をARPUというのですが、ご覧の通りどんどん減ってます。でも余った分が音楽に行ってません。なので携帯代が高いから音楽にお金が回らないって言うのも・・・
3 違法コピー、ファイル共有ダウンロードが多い
ナップスターがつぶれたのは1999年。そのあともいろいろ出ましたが、日本人で利用してるのはいまや少数派でしょう。違法コピーも昔はせっせと焼いて配ってる方もいましたが、インドネシアみたいなアジアの国なら一枚100円でコピーのCD売ってる店がたくさんあるけど、日本はないでしょう・・・
4 レンタルとレンタルの中古落ちの販売にやられた
ツタヤの売り上げが好調に伸びてまして、これは確かにあるかも。と、一瞬思いましたけど
レコードとCDのレンタル店のピークは実は一番CDが売れていた1988年。ツタヤの売り上げの増加はどうもCDのレンタルではなさそうです。まあオンラインでレンタルしているのかもしれませんけど、ウハウハではなさそう。ツタヤの2010年3月のリリースを見ると雑誌や書籍の販売が好調だったようです。だいたい日本みたいにレンタルがそこかしこにあるわけでは無いアメリカだって音楽業界が衰退しているわけで・・(超大手のビデオレンタルのブロックバスターも去年つぶれちゃいました)。
となってくると、音楽業界衰退の原因は、よく言われているような断片的なものではなく、意識的なものなんじゃないだろうか。ちょうどテレビ離れと言われる時期も2000年くらいから。つまりネット、とくにBBなどの高速回線が個人に広く普及しはじめた時期と重なる。
ネットが個人に普及始めた時と同時に・・・
まずデータ的に軽い音楽CDが売れなくなった(違法ダウンロードが繁栄した時期)
そしてレンタル店が減少
高速回線の普及とともに圧倒的なテレビ離れ!!
テレビを見る時間帯(ゴールデンタイム)にメールチェックしてネットサーフ!!
若者層がテレビを見ないから、今の地上波は中学生と老人向け。音楽番組も無くなる。
総論的に言うと、ネットの普及によって個人が得ることのできる情報量が莫大になったと考えるのが正しいんじゃないか。そしてテレビなどのマスメディアの影響力が相当に減少した。そもそも音楽業界は「仕込み」という作業によって大衆に売り込みを図っていた。音楽だけじゃなくて映画とかほかにも仕込まれていたのはたくさんありますが、一般には仕込みといういい方はかっこよくプロモーションというふうに呼ばれます。その昔、テレビの音楽番組でピンクレディが新曲を発表すると翌日のオリコンにいきなりランクインする、あれがプロモーションだったわけですよ。最後に本格的な音楽プロモーションが日本で成功したのは、ケーブルで朝から晩まで流しまくってヒットさせた宇多田ヒカルの「Automatic/time will tell」じゃないでしょうか。いつだったかなと思って調べたら、なんと1998年!!! ネットが個人向けに解放された年。二年遅かったらこの曲はヒットしなかったかもよ!
が、その後、マスメディアがネットにリーチ力を奪われてユーザーに到達できなくなった。
少し前ならテレビに広告代理店が仕込んでヒットさせたものがたくさんあったけど、いまは広告で物は売れない。それより口コミになった。ちまたで大人気のはずの(テレビではそう言ってます) AKBの主演のテレビが大コケ。おばさま方に大ブームのはずのチャン・グンソクの特番も大コケ。これはみんな、仕込み(プロモーション)が通用しなくなった表れとこちらのブログにも書いてあって非常に共感しました。
つまりネットの普及によって、割食った業界に共通すること。それはマスメディアのプロモーションによって浸透していた業界ではなかったかと思うのです。音楽業界がその際たるもので・・。