読書感想文”「イスラム国」の正体”を読んで

2015年1月27日

ここ1週間、イスラム国(ISILまたはISIS)の話題が沸騰してまして、中身を知らないで語って墓穴を掘るのは嫌だなと思ってまずはこれを読んでみました。


「イスラム国」の正体 なぜ、空爆が効かないのか Wedgeセレクション No.37
Kindle版で200円と安く、昨日紹介したらアソシエイトで物凄く売れてましたので昨日からみなさんも読み始められたと思います。この巻頭に書かれている東大の池内准教授の本のKindle版も明日配信されるので予約しています。
※1/28追記 ↓続きも書きましたのでこのエントリー読み終えたらどうぞ
「イスラーム国の衝撃」を易しくかみ砕いてみた

ついでにブログも拝見しています。

中東・イスラーム学の風姿花伝

昨日のブログでは、

早期に湯川さんは殺されていた可能性が捨てきれない。どこかこれまでとは違う手順で犯行や脅迫が行われている様子がある。何か無理をして脅迫案件を作り出しているのではないか、という気がする。軍事的あるいは資金的に追い詰められているのだろうか。確たる結論も根拠もないのだが、これまでと同じスタイルの映像を作れず、これまでの映像と比べると格段に完成度の水準の低い静止画の宣伝映像を出してきた理由は何なのだろうか、腑に落ちないところがある。

と、語られており、今回の事件についての鋭い観察がありました。

さて”「イスラム国」の正体”という200円のKindle本ですが、だいたいどのようにしてできてどのようなものなのかは分かりました。ひと言でいうといままでのアル=カイーダのようなテロ組織とは比較にならないほど危険だということもわかりました。
まず、このグローバル・ジハード(世界視野の聖戦?)についてはここ10年で大きく変わっているということが大事なのです。ひとことでいうなら

各自が勝手にやってるバラバラな「組織とはいえない組織」

ということが特徴です。世界80ヵ国から集まってきて、トルコなどを経由して豊富な資金が流れ込み、欧米がアサド大統領打倒の応援のために「反政府組織」に付与した最新兵器で武装している。設立の時はNGOや有名政治家もかかわり、大量の資金が流れ込んだ。創立者というか最初に立ち上げたザルカーウィはすでに米軍に殺されている。いまはぶっちゃけ誰が仕切ってんのかもわからない状態というか、誰も仕切ってないわけだ。

指揮権がしっかりしていれば拉致の交渉は上と行えば良いが、末端が別々に勝手にやってるわけで、交渉するにもどこが窓口か全くわからない。アル=カイーダのほうがまだ良かった。しかし現在ではアル=カイーダとも敵対していて、しかも若者はアル=カイーダではなくてイスラム国にリクルートされてしまう。オウムも似た感じだったが統制はもっと取れていたから麻原逮捕で終わったが、イスラム国はサリンテロの犯人が何万人もいる感じで各自が適当にやってると思えば良いわけです。怖い。

イスラム国はそもそも欧米の対テロ戦争に対抗するためにこうした分散型で非集権的な組織を作り、結果としていくら爆撃してもそもそも司令部がないのだから効果も上げられないというまるでウイルスのような組織になってしまっている。
もうひとつウイルスに近い特性として「ここ1年でどんどん変化している」ということが挙げられると思います。2011年のアラブの春以降に本格的に活動しはじめてまだ4年。イスラム国を宣言して従来の国境は認めないといいだしたのは2013年でまだ2年前です。組織的なつながりを持たず、ウイルスみたいに変化しているから「前はこういう交渉ができた」とかが全く効かないように思われる。今回の殺人だって池内先生が書いているように実はずっと昔に処刑していて、それを使ってきた可能性もかなりある。2億ドルの難民支援を取り消せみたいな馬鹿発言があったが、上にも書いたけど明確な指示系統があるわけではないことを知ってから言って欲しい。各自がばらばらに好きにやってるんだから!

現在の勢力範囲はシリアとイラクにまたがっているわけだが、従来の国境の概念を否定しており、どこであっても「ここがイスラム国だ」といえばそうなる。日本にイスラム国ができる可能性だって0ではない。彼らの戦略の一つに「Home Grown」というのがあり、全く孤立した一人のテロリストを洗脳して育成するというものだ。そしてその一人がいる所がイスラム国になる。日本の不満を持った若者1人を洗脳して「いまの政府が悪い」「爆殺してやる」というように育成するのって全く机上の空論じゃないでしょう?
また、世界各国にイスラム国のシンパは多数いて、日本に観光客に紛れてやってくる可能性だって大きい。いままでみたいなアラブ系ばかりではないのだ。イギリスやアメリカ、オーストラリアやマレーシアなどにも賛同者がいて逮捕者もたくさん出ているのである。1991年に筑波大の助教授の悪魔の詩訳者が殺された事件もあったでしょ!

テロに屈するということ

いままで欧米は「テロに屈しない」という立場で対応してきたわけですが、このイスラム国についてはぞっとしてくる事実にぶち当たります。誘拐や断首での殺人を行ってる奴らは横のつながりが希薄。つまり目的も練られていないわけです。戦術はあっても戦略がない。となると、あるグループは政治的な目的で拉致し、あるグループは金のために誘拐するというように目的が統一されていないわけです。「単に異教徒をぶっ殺したいから殺す」っていうグループもあるでしょう。

ニュースではフランスは裏取引で解放させた、だから日本も金払ってみたいなのがありましたけど、実際にはフランスだって首切られた山岳ガイドのエルベ・グルデル氏(55)もいて、金払えばみんな解放されるとは必ずしも言えません。エルベ・グルデル氏はイラクやシリアに行ったわけじゃ無くてアルジェリアに旅行中に拉致されて首を切られたのです。

アルジェリア軍、斬首された仏人質の遺体を発見
↑ 犯行はイスラム国の下部組織のアルジェリアのテロ集団です。イスラム国は国境の概念がないのでアルジェリア国内のイスラム国と言ってもいいでしょう。こういう感じで世界中に広まっていく可能性もある。

この間、後藤さんのお母さんが「イスラム国は敵ではない」と言ってましたが、イスラム国はスンニ派のみがイスラムであるとしていてシーア派を敵としている。イランとかアゼルバイジャンは死ねって感じです。で、スンニ派のイスラム諸国もサウジアラビア、バーレーン、カタール、UAE、ヨルダンはあまりに危険と言うことでイスラム国を爆撃しています。イスラム諸国にとっても危険なイスラム国は敵なんです。イスラム国って癌みたいなもので、しかも放っておくと増殖する。共存はありえず、徹底して外科手術したり抗がん剤で叩くしかない。見て見ぬふりは出来ない存在なのです。オウムを放置してどうなったか思い出したらわかりそうなもの。

で、肝心のテロに屈するということですが、仮にお金が目的のグループであれば、日本人さらえば金が入るということならバンバンやるでしょう。しかも80ヵ国から集まってきているわけで、世界のどこに行っても危ない。商社マンとか仕事で行く人とかどうすんの。

首相官邸前で「安倍総理は人の命を軽んじている」とデモした皆さんはこういう前提を知っているのかな。200円なんだからこれくらい読んでから非難するならしましょうよ。共産党の志位委員長でさえ

共産党の志位和夫委員長が池内沙織議員の安倍政権批判に異例の苦言

「政府が全力で取り組んでいるさなかだ。今、あのような形で発信するのは不適切だ」と指摘した。共産幹部が政権批判を戒めるのは異例。

と言っています。どれだけ交渉が大変か、共産党でさえ分かっているのです。好感度10ポイントくらい上がった。無責任に騒ぎ立てたり、政権批判するより一丸となってテロにどう向かうかを考える方が良い。おっと、その前に最低限の知識は持とうよ!!わたしがいいたいのはそれが一番です。

よく「憲法改正したら子供が戦争に行かされる」とステレオタイプで騒ぐ人がいるが、現在では国と国の戦争より、こうしたテロとの戦争の危険性のほうがよほど高い。いままでの戦争の概念とは違うでしょ。自衛隊の海外派遣を認めないなら、海外でたくさんの日本人が拘束されて次々処刑されてるときに自衛隊を出せなくて見殺しでいいってことでしょ。

んで、後藤さんが「公用パスポートでシリアに行った。つまり政府の意向で行ったのだ」という陰謀論をパスポートが公用だからということでデマ撒きまくってしかもそれを拡散されている馬鹿なみなさん。

1
左に公用のパスポートつけた。比べて見なさいよ。どこをどう見たって公用じゃないだろう。どうして反射的にこんなデマに引っかかるのかマジで謎。元デマを撒く方は二種類あり

1 アクセス集めて稼ぎたい

まとめサイトやバズメディアのようにとにかくアクセスさえ集まればパクリでもガセでもかまわない

2 注目を集めたい

つまようじ男と同じで、とにかく自分に注目してもらいたい

という感じですが、一番馬鹿なのはそれに振り回される方々ですね。そしてデマとわかったあとでもシェアを取り消さない。このあたり、なんとかしてもらいたいものです。

そんなわけで明日のKindle配信も心待ちにしています。
※続き書きましたので、こちらもあわせてどうぞ
「イスラーム国の衝撃」を易しくかみ砕いてみた

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