「イスラーム国の衝撃」の池内先生にISについて疑問をぶつけてみた結果と、自分がトリコロールのアイコンに賛同しない理由

2015年11月17日

ここ数日間、ネットでは「トリコロールアイコンに賛同に違和感を感じる派」と「フランスに哀悼の意を表しても、それは他国に表しないことではない派」がバトルを繰り広げております。わたくしは違和感派でございまして、Facebookに投稿しましたら

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1000人以上いいねが付きました。同じように感じた人いるんだね。
人の感性はそれぞれなので、各人がどうするかはその人の自由ですので、他人のことはとやかく言いません。自分が違和感あるだけなのです。いや、フランスには哀悼の意は表しますけどね。

で、以前この本を紹介しました。

「イスラーム国の衝撃」を易しくかみ砕いてみた

池内恵(東京大学先端科学技術研究センター准教授)先生の「イスラーム国の衝撃」はこのブログ経由で500冊以上売れました。ISについて語りたいならまずこれは必読。

イスラーム国の衝撃 (文春新書) Kindle版800円

それが縁となりまして(先生が講演でわたしのギャグである「アルカイダはほっかほか亭でISはほっともっと」というのを使っていただいた)、エロ満載のFC2から先生のブログをオリジナルドメインのWordPressに移転させていただきました。移転と保守はこのブログに搭載しているアンチアドブロックアプリを開発した柿崎君です。ホリエモンドットコムの立ち上げもやってもらいました。

中東・イスラーム学の風姿花伝

ISやパリのテロについての背景を知りたい方は、先生のサイトをチェックするのが一番いいかと。あり得ない陰謀説とか、事実誤認についてしたり顔で語る人も多いですが、本当の専門家です。で、わたくし「トリコロールが云々」と主観で物申す人が多い中、先生に直撃で(といってもメッセージで)持っていた質問をぶつけて回答していただきました。なんという役得!!!
昨晩はNHKクローズアップ現代に出演されるという忙しい中、答えていただいてありがとうございます。

フランス以外のテロの犠牲者ってどうよ

パリのテロが大きく取り上げられているのに、他の国には哀悼の意も表しない。これについては


や、中国の弾圧で物凄い数が虐殺されているトルキスタンの人たちが、「自分たちにも哀悼の意を示してくれ」と訴えたり、やっぱりという形になってきました。で、まずは先生に他国でのテロの状況についてお聞きしました。
まずはヨーロッパにおけるテロ。

What Paris’s night of horror means for Europe

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グラフの中の緑部分がイスラム過激派によるものです。
今回のパリのテロは規模が大きいのがわかります。が2011年のノルウェーでの連続テロ(極右)で77人。しかし2004年にはイスラム過激派がスペインで列車の爆破テロを行い、191人が死亡、負傷者2000人以上という今回を上回る規模の殺傷事件を起こしています。

では世界レベルではどうなのか。

The 10 countries where terrorist attacks kill the most people

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2013年における世界のテロの被害者数は16245人!!!うち、80%が5ヵ国に集中。イラク、アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリア、シリアです。すべてイスラム国家。この5ヵ国だけで2013年のテロの死者は13000人弱!!
もちろん内戦中の国もあるので、テロと言っても戦時下だろうということで片付けられてしまいがちですが、パリでテロで悲惨なら、この5ヵ国のほうがもっと悲惨だと言われても仕方ないでしょう

アメリカがイラク戦争を起こしたのでISが生まれたのか

ネットを見ていると、アメリカのせいだという声が多いのですが、それはどうなのか、先生にお聞きしましたよ。要するに、「アメリカがイラク戦争起こしたのでISが生まれたのかどうかです」

先生の回答 「2011年のアラブの春でわかるように、独裁世襲政権は崩壊して、宗派・民族・部族の対立が表面化して、諸勢力が争う間に、ISの活動範囲が出てきたでしょう。アメリカは10年早く独裁政権を除去しただけで、結果は同じです。現地社会と政権の構成が原因です」

なるほど。「イスラーム国の衝撃」を読みますと、そもそもの発端は中東やパキスタンなどの西方アジアでの大戦後の独裁政権国家で、ISの伸張には「思想的要因」と「政治的要因」があると書かれている。「アラブの春」はいいことばかりではなかった。地方政治の締め付けが緩んだせいで、一気にグローバル・ジハード運動が広まった。
アメリカがフセイン政権を壊滅されなくても、いずれアラブの春がイラクにも及んで独裁政権は倒れたはず。アメリカはそれを早めてパンドラの箱を開けてしまったわけですな。

続いて
「アメリカがイラク戦争の処理に失敗したため、ISが伸びたというのはどうでしょう」という質問

先生の回答 「戦後処理を上手くやればいいと言っても、宗派・民族・部族にまとまって争う問題を外からうまく操作することは無理でしょう。アメリカは2011以降にアラブ世界の内側から自然に起こることを2003年にやってしまっただけです。なお、2011年のアラブの春がアメリカの陰謀だという説は外部の人の単なる妄想です。現実に影響力をもたらせないが西欧のメディアに受けることを言うのは上手なアラブ知識人のいつもの責任転嫁でもあります」

とのことでした。いずれにせよ、グローバル・ジハードは起きるべきして起きたってことですね。

わたし思うに、一番大事なのは、「ISはイスラム社会を全く代表していない」ってことだと思うんですよ。ISでは2014年に指導者のバグダーディーが勝手に「カリフに就任宣言」を行い、全世界のイスラム教徒の政治的指導者の立場を主張しました。これは世界各国のイスラム教徒にとって許されることではないわけです。ISにとっての敵は異教徒だけではなく、自分たちを指導者と認めないイスラム教徒も敵なわけで、つまりは周囲はみんな敵。

池内先生よりご指摘いただきました
「イスラム社会を代表していない」という点は、少なくとも「教義」については批判しようがない定説を振りかざしているので、ある意味では「古典的に有力な教義解釈を用いている」という意味で、代表していないと外部の我々が決め付けられないのではないかと思います。「人」という意味での「ムスリム」の大部分を政治的に代表していないことは、国単位で加わろうとする国が現れないことや、支配地域で逃げていく人が多いことからも明らかでしょう。問題は人間中心主義をイスラム教の支配的解釈においても認めていないので、「人の側にとって都合が悪い教義は変えましょう」と言えないこと。あくまでも神の下した法が絶対的に優位だとする信仰がある以上、「イスラーム国」は存在し続けます。物理的な拠点をなくしたり、テロなど行動を起こしたら即座に対処して社会的な非難を浴びせる必要があります。その意味で、「ムスリム社会を代表していない」と言うことは良いことだと思います。イスラーム教の教義解釈上は必ずしもそうとは言えないが、我々はその教義解釈を受け入れていないのだから、「代表していない」と言うということを自覚していれば良いと思います。自覚していないと、「なぜ一般ムスリムが強く反対してくれないのか」が理解できませんし、問題が簡単なことのように感じてしまいます。「ムスリム社会を代表してないだろ」と外部から言うことで、大多数のムスリムがジハード主義と立ち向かう支援になります

—– ここまで ——

ISは昔のイスラム法に則って斬首したり異教徒の少女を性奴隷にしたりやりたい放題。いわばオウムと同じカルトみたいなものです。死んだら天国に行けると洗脳されているので喜んで自爆する。世界各国の社会の隅々で不満を抱えている若者を、メディアを使って集める。洗脳された若者たちは帰国してテロを起こす。周辺国家ばかりではなく、世界中の国にとって脅威なわけです。人類にとっての癌細胞といえるんじゃないだろうか。「話し合いで解決できる」と乗り込んでも首を切られちゃうんだから無理だよね

わたしがトリコロールに違和感がある理由

もちろん違和感がない人は自由にされたらいいと思うが、自分は明確に違和感がある。

まず、アメリカを中心とした欧米社会についての違和感。自分が一押しの小説にスティーブン・ハンターのボブ・リー・スワガーのシリーズがある。スティーブン・ハンターはかなりの日本びいきで、ボブの父のアールは硫黄島で日本軍と戦ったのであるが、帰国後日本兵のことを非常に勇敢で優秀な兵士であるとレスペクトしている。しかしこの中の

このシリーズではイスラム過激派との戦いが繰り広げられるのだが、イスラム戦士に対するレスペクトはほとんど感じられない。「汚らしい布を頭に巻いた臭い奴ら」的な表現ばかり。これがアメリカ人全員の価値観ではないと思うが、映画「アメリカンスナイパー」見ても同じように感じられた。

今年10月には、トルコのテロで100人以上が亡くなっている。日本にとってフランスよりトルコのほうがよほど親日だと思うのだが、トルコも人口の99%以上がムスリム(イスラム教徒)。同じく10/31のロシアの航空機テロでは224人が亡くなっているが、このときもFacebookで哀悼とかなかったよな。

で、今回のトリコロールの発端はFacebookだったが、ご存じのようにザッカーバーグはユダヤ教徒の家庭に生まれた。つまりユダヤ系です。ユダヤ人も迫害された歴史を持ち、しかも優秀な人が多いのでアメリカの金融とかメディアはユダヤ系の経営者がたくさんいます。自分にもユダヤ系の知人がいるのであるが、ユダヤ系の社会の結束は固い。同じくユダヤ系であるスピルバーグが映画「ミュンヘン」で、イスラエルのモサドの暗殺を描いて厳しい批判を浴びました。ちなみに昨日「テロに屈しない」としてライブやったマドンナも、ユダヤ教徒ではないがユダヤ教の神秘主義思想、カバラの信奉者です。

ユダヤ人のふるさと、イスラエルにとっては、レバノンやシリア、ヨルダンはみんな敵国なのです。ロシアも激しいユダヤ人弾圧をずっと行ってきた歴史があります。
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エジプトはサダト大統領の時はイスラエルと親交がありましたが、そのあとアラブの春から治安が悪く、テロも頻発しています。

なにが言いたいかというと、「敵国でテロがあっても別に心は痛まない」という臭いがしませんかってこと。自分だって中国でテロがあっても中国国旗にアイコンにする気はあまりない。実際ロシア機が墜落しても誰もロシア国旗にしないじゃん。それと同じ感じではないかと思うんです、アメリカ人。
しかし日本人にとっては、サッカーのアジア予選でもヨルダンやシリアは同じアジアのグループで、アジア人としてシンパシーを感じます。トルコだってめちゃくちゃ親日だけど、イスラム国家だからユダヤ系からは・・・(トルコは親イスラエルだけど)

なので、アメリカという国の価値観にそのまま乗っかるのがちょっとな・・・という感じなのでございます。それだけなのでした。

ちなみに池内先生の新刊は「アラブの春とはなんだったのか」なんですが、立て続けの事件でなかなか完成せず、年末までにはという感じだそうです。

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